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裁量労働制を違法に適用されていた野村不動産の50代の男性社員が過労自殺していたことが判明した。(2018年3月5日東京新聞、毎日新聞等)遺族が労災申請し、2017年12月に労災認定された。把握された残業は最長で月180時間であったという。安倍首相は国会で「働かせ放題にならないか」と追及された際、野村不動産への労働局の指導を具体例に挙げ、「制度が適正に運用されるよう今後とも指導を徹底する」と答弁した。安倍首相は男性社員の過労自殺に対する労災認定に関し、「報告は受けていない」と述べたという。本当かどうか疑問が残る、少なくても、2月21日の衆議院予算委員会中央公聴会の寺西笑子全国過労死を考える家族の会代表世話人の「裁量労働制を拡大すると死人が増える」との発言を始め、裁量労働制が過労死・過労自殺を増加させるとの意見に対して、マジメに検討していなかったことは明らかで、行政の長として怠慢であり、責任が追及されるべきである。

野村不動産は当時企画型裁量労働制を社員約1,900人の内、約600人に適用していた。東京労働局は2017年12月に是正を求める特別指導をしたと発表したが、男性社員の労災認定は明らかにしていない。安倍首相が「指導を徹底する」としたが、その担い手は労働局・労働基準監督署である。本来、過労死・過労自殺を防ぐ役割を期待されている労働局・労働基準監督署は労災認定後、直ちに過労自殺を公表し、警鐘を鳴らすべきであった。

3月5日の参議院予算委員会で、加藤厚生労働大臣はこうした報道にも拘わらず、働き方改革関連法案から企画業務型裁量労働制の適用範囲拡大を除外することとの関連で「法律案要綱に盛り込まれた「労働者保護」に関する部分も削除する考えを示した。厚生労働省が公表していなかった過労自殺の事実を無視し、現行の裁量労働制の欠陥を全く認めようとしないという意思表明と言えるだろう。

「労働者保護」のための規制強化とは、①「勤続3年以上」の経験要件を追加、②労働基準監督署が違反する企業を指導できる根拠の明確化、③終業から始業までのインターバルの確保(努力義務)、労働時間が一定(法律案要綱では時間は明示されていない)の時間を超えないようにする、年次有給休暇を除く有給休暇の付与、健康診断の実施、の内『いずれか一つ』に過ぎない。現行裁量労働制の問題点をわずかながらカバーできるこれらの極めてささやかな規制すら削除する必要性がどこにあるのだろうか。加藤厚生労働大臣の考えは、「働き方改革」が実は「働かせ方改革」であることを如実に示している。

裁量労働制の適用範囲の拡大と並んで「規制改革」の目玉である「高度プロフェッショナル制度」についても「定額働かせ放題」の温床であるとの批判がある。労働政策審議会労働条件分科会でどのように議論されて来たのか。厚生労働省は企画型裁量労働制の審議に当たっては、長時間労働を懸念する声に応えるかのように「平成25年度労働時間等総合実態調査結果」を提示し、裁量労働者の労働時間は一般労働者の労働時間より短いというデータをねつ造した。ところが高度プロフェッショナル制度については、労働政策審議会労働条件分科会の議事録を見る限り具体的なデータは見当たらない。(検索できた範囲内ですが)勿論、高度で働く労働者は存在しないので、一般労働者と単純に比較することは出来ない。しかし、高度プロフェッショナル制度は、例示された職種としては、①金融商品の開発業務、②金融商品のデイリング業務、③企業・市場等の高度な分析にあたるアナリスト業務、④事業や業務の企画運営にあたるコンサルタント業務、⑤研究開発業務に限定されており、専門業務型裁量労働制と共通する要素があり、「総合実態調査」は検討資料であった筈だ。専門業務型裁量労働制は、1987年の労働基準法改正当時には、①研究開発技術者、②情報処理技術者、③プロデュサー、④ディレクター、⑤デザイナー、が例示されており、「総合実態調査」の研究開発業務従事者との比較は意味がある。厚生労働省の資料提供と労働条件分科会の審議はプロが行うレベルではなかった。このことからも裁量労働制の範囲拡大も除外すべきことは明らかだ。