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これまで述べて来たように、労働政策審議会建議(報告)は、本来、裁量労働制が予定していた企業の中枢における業務以外の業務に対象業務を拡大しようとするものであって、労働時間を自分で管理することの出来る労働者に対象を拡大するものであり、当初の立法趣旨を逸脱するものである。対象業務拡大の結果、個別の営業業務に携わる労働者や、業務管理を行う労働者など、極めて広い範囲の労働者までに適用されることが予想される。対象業務の定義があいまいであるため、使用者が日常的な業務の中で、対象業務を拡大して運用する恐れが強い。本来、労働基準法で定められた労働時間規制が有名無実化されようとしている。

裁量労働制の範囲拡大は、長時間労働の温床であり、過労死の増加を招く恐れすらある。「8時間労働制」の原則「仕事に8時間を、休息に8時間を、俺たちがやりたいことに8時間を!」という1890年5月1日のメーデーのスローガンが破壊されようとしている。

労働時間の実情については、厚生労働省の「毎月勤労者統計調査」が公表されているが、この統計においては、裁量労働制を適用される労働者がみなし時間を超える(しばしば大幅に超える)労働を行ったとしても統計上、「労使協定であらかじめ定められた時間だけ労働したものとみなされ、「毎月勤労者統計調査」上の労働時間には反映されない。加えて、関西大学森岡名誉教授の指摘「サービス残業の蔓延は政府も認める公知の事実である。にもかかわらず、サービス残業の時間数やその不払賃金の金額を示す政府統計は存在しない。なぜなら企業(事業所)の申告にもとづく政府の唯一の包括的で連続的な労働時間統計である「毎勤」は、所定内労働はもちろん、所定外労働についても、賃金または割増賃金を支払った時間のみを集計していて、労働基準法違反の賃金不払残業は存在しない建前になっているからである。」に留意する必要がある。裁量労働制によって不可避に発生するサービス残業は、労働時間の実態の把握をさらに困難にするものである。(続く)