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安倍政権が目論む「働き方改革」では、「裁量労働制の適用範囲の拡大」、「高度プロフェッショナル制度の創設」という「鞭」と「残業時間の上限規制」、「同一労働同一賃金」という「飴」が混在しています。「鞭」についてはこれまで述べてきました。では「飴」は甘いのか、毒がないのかも検討する必要があります。「残業時間の上限規制」は「100時間未満」という具体性があり、有毒であることがはっきりしています。「同一労働同一賃金」は、抽象的で分かりにくいものです。確かなことは労働契約法第20条を削除して、「パートタイム労働法」(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」を「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に移行させ、パートタイマー、有期雇用労働者の「同一労働同一賃金」を規定し、派遣労働者については、「労働者派遣法の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」の一部改正によって「同一労働同一賃金」を規定しようとするものです。

使用者と労働者の関係を包括的に述べた労働契約法から、「同一労働同一賃金」に係る条文、即ち「期間の定め」があることによる不合理な労働条件の禁止に関する規定を削除するというのです。削除する狙いは何でしょう。何か目的がある筈です。労働契約法は22条からなる簡潔な法律です。何故、簡潔な法律を長文の法律に置き換えるのでしょうか。

最大の問題は「期間の定めがあることによる不合理な労働条件」とは何かです。「同一労働同一賃金」をスローガンとする「働き方改革」関連法案は、不合理な労働条件を改善するものでしょうか。

まず、直近の裁判例を検討しましょう。全従業員の半数にあたる19万人が非正規労働者である日本郵便の契約社員3人が「正社員と同じ仕事をしているのに、手当や休暇などの労働条件に格差があるのは違法だとして約1,500万円の支払いを求めた訴訟で東京地裁は9月14日に一部の手当の不支給を違法と認めて約92万円を支払うよう命じる判決を出しました。原告団、弁護団が悪戦苦闘して、日本郵政の違法行為を認めさせたことは高く評価できるものです。又、司法として正社員と契約社員の格差是正に向けた社会的議論を求めたことも評価できます。

でも1,500万円に対して92万円、率にして約6%。・・・東京地裁は「年末年始勤務手当」「住居手当」「夏季冬季休暇」「病気休暇」を契約社員に全く与えていないことについては「不合理な労働条件の相違で労働契約法第20条に違反すると判示し、「年末年始勤務手当」については正社員の8割、住居手当については6割を損害額として支払いを命じました。(「夏季冬季休暇」「病気休暇」は原告が損害賠償請求せず)

しかし、原告が求めた「外務業務手当」「早出勤務手当」「祝日給」「夏期年末手当」「夜間特別手当」「業務精通手当」については「日本郵便の正社員と契約社員との間には職務内容や配置転換の範囲に違いがある」などとして格差があることは「不合理とはいえない」として原告の訴えを退けました。

定年退職後の再雇用についての裁判所の判断は長澤運輸事件で示されています。運送会社長澤運輸を定年退職後有期契約で再雇用された3人が「仕事内容は変わらないのに、賃金が引き下げられたのは理不尽だ」とした訴訟の東京地裁判決〈2016年5月14日〉は、賃金引き下げを違法と判断して、会社に定年前と同水準も賃金を支払うよう命じました。しかし、東京高裁判決(2016年11月2日)では、賃下げは社会的に容認されているとして、個別の賃金項目ごとに不合理性を判断しないまま3人に逆転敗訴を言い渡したのです。

労働契約法第20条をめぐる司法判断から考えると「働き方改革」による「同一労働同一賃金」は極めて限定された「飴」であることが容易に想像できます。(続く)