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特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)(3)

 

高度プロフェッショナル制度の問題点の検討を続けて行きましょう。

 

5  高度プロフェッショナル制度による労働時間規制の適用除外の拡大はより一層の長時間労働を引き起こす。どれだけ長時間労働をさせても割増賃金支払いの必要がなければ、会社が長時間労働をさせることは容易に想像がつきます。「高度の専門的知識、技術、又は経験」を有する労働者が1日8時間働くよりも1日12時間働いた方が、成果が上がると考える経営者が多いからです。

週休2日2017年11月を例に考えてみましょう。11月は2回の祝日があって、1日12時間働く場合、1月の労働時間は12時間×20日間=240時間と考えがちです。しかし、法律案要綱を見ると「1週間当たり40時間を超えた場合」となっています。1~2日の2日間の週の所定労働時間は32時間ですから、経営者から見て12時間に加えて8時間の余裕があります。又、20日~24日の週はやはり、所定労働時間は32時間ですから、経営者から見て12時間に加えて8時間の余裕があります。これを勘案すると、1月の労働時間は240時間+16時間=256時間という計算が出来ます。1日当たり12時間48分です。通勤時間が往復で3時間とすると、15時間48分が会社のために使用されることになります。

残りの時間9時間12分で食事、入浴、睡眠、更衣、・・・・時には家族サービス、健康確保に必要な睡眠時間はそうなるのでしょう。こんな生活を続けたら、会社は健康診断実施の義務が生じるというのが法律案要綱です。どうすれば1年間で104日以上の休日が取れるのでしょうか。時間管理は勤務時間ではなく、健康管理時間とされ、健康管理時間は通常の勤務時間制度の規定が罰則付きであるが、健康管理時間の規定は罰則がなく、企業の裁量に委ねられることになります。

 

6 2009年に厚生労働省の外郭団体である労働政策研修・研究機構が行った「働く場所と時間の多様性に関する調査研究」が興味深いデータを示しています。裁量労働制で働く(見做し残業性で時間管理されていない)労働者等の、労働時間は、通常の勤務時間制度の労働者よりも労働時間が長く、月281時間以上の長時間労働を行っている割合は「通常の勤務時間制度」の労働者が5.6%であるのに対して「時間管理なし」の労働者は21.2%にも及ぶのです。

 

7 労働政策研修・研究機構のデータで明らかな通り、既に裁量労働制で経営者が労働者に長時間労働を強いることが出来ること、又、これによって多数の過労死、過労自殺が発生したことも明らかです。長時間労働の抑制による過労死、過労自殺の防止が喫緊の課題となっているこの時期に新たな「適用除外」制度を設ける意味はありません。

 

8 加えて、高度プロフェッショナルのもう一つの要件「その性質上従事した時間と従事して得た成果の関連性」という立論も、既に多数の企業で成果型賃金制度が導入されている現状から見て、この時期に新たな「適用除外」制度を設ける意味はありません。

 

9 勿論、高度プロフェッショナル制度は、労働法制の柱の一つである、1日8時間、1週40時間の原則を破るもので、深夜の割増を免除して、現行制度に風穴を開けるものであり、こうした労働基準法の改悪を許すわけにはいきません。しかし、考えてみると、法律案要綱が示す内容では現在の状態が大きく変わるとも思えません。では、何故、このような実効性に乏しい制度の導入を強行しようとしているのか。法律案要綱を読み返しても答えは書いてありません。そこで二つの仮説を検討することにしましょう。

 

仮説1 高度プロフェッショナル制度は、厚生労働省令によって、変質する可能性が大きいのです。年収要件が緩和される可能性があります。もっとも、かなりの時間を要するでしょうが。1075万円を一気に400万円にするのは困難です。しかし、派遣法改悪の歴史を見れば不可能ではないことに気づかされます。もう一つは、対象業務の範囲が、そして対象労働者の範囲が拡大される可能性が高いことです。これも年収要件の緩和にペースを合せて進行して行く可能性が高いことです。行き着く先は、労働者は年収400万円以下と400万円以上に二分され、「通常の勤務時間制度」で時間管理の対象となるのは、年収400万円以下の労働者に限定され、年収400万円以上の労働者も700万円未満と700万円以上の労働者に二分されて、労働時間、休憩、休日、深夜業の規制から除外される。400万円以上700万円未満と、700万円以上の差は、労使委員会の決議で定めた業務か、労使協定で定めた業務でしかなく、実質的には基幹要員と、単なる手足に区分される日本経団連が2005年に提唱した「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」に近いものになることが予測される。

仮説2 働き方改革の本丸は年収要件のない裁量労働制の適用範囲の拡大ではないのでしょうか。高度プロフェッショナル制度の廃案と引き換えに裁量労働制の適用範囲の拡大を実現するシナリオが描かれている可能性があります。裁量労働制の適用範囲の拡大は当面より、多くの労働者を労働時間規制の対象外とすることになるからです。(続く)